近島国際特許事務所 Chikashima & Associates

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コラム - Column

初めに言葉あり

 新約聖書(ヨハネによる福音書の冒頭)にある有名な文言ですが、これに「言葉は神と共にあり、言葉は神であった。」と続きます。この「言葉」は、ギリシャ語のロゴス(λ?γο?)の訳とのことですが、ロゴスは、概念・論理・理念などの主知的傾向を含意するものであり、内にあっては思考であり、外に表すには言葉となります。ギリシャ、ローマの多神教の神が、努力する人には助けてあげようか程度の人間的で穏やかな神であるのに対し、一神教であるキリスト教は、人を支配しその生活を管理する厳しい神です。ピュアな時代のキリスト教は、磔のキリスト像ではなく、聖書に書かれている精神、理念自体を神としたのでしょう。

 クリスチャンでもない私が、ここでこのようなことを書くのは、ロゴス(言葉?)が特許においても常に付き纏うやっかいな問題だからです。発明は技術思想(ロゴス)であり、言葉は、その象徴機能により意思伝達の担い手であると同時に、ある種の言葉(内言語)により我々は思考します。内言語である技術思想が、そのまま意思伝達手段として言葉(外言語)に翻訳できればよいのですが、内言語に対して外言語は圧倒的に貧弱、未熟(語彙、文法、多義性等)であり、明細書特有の権利書的性格(言語の抽象性を拡げたい;あいまい)と技術説明的性格(言語の抽象性を狭めたい;正確)の引張り合いもあって、熟練の要する困難な作業となります。

 明細書は、技術思想である発明があって、その発明の実施の形態を書き、更に具体化した実施例を書くことが建前となっていますが、多くの場合、初めに実施例があります。実施例を基にして書くことは、教義成立後のキリスト像のように、その象徴レベルも低く、言語を用いて比較的容易に表現できますが、このような場合でも、先行技術と比較して実施例(図面)のものから発明思想を抽出し、該抽象化に基づく他の実施例も案出してスパイラル的に抽象レベルを高めることが好ましいことは勿論です。この作業は、クライアントとの間で満足するように、抽象の階段を昇ったり降りたりしますが、それも、上記内言語たる思想を外言語たる言葉で表現する必要があります。

 内言語たる思想を外言語たる言葉で表現し、それがクライアントと共通認識を成立させ、かつ特許権として社会性を得るためには、基盤となる技術知識、特許に係る充分な習練、外部からのフィードバックを受け入れる柔軟性等が必要です。

 当事務所は、各所員の上述した共通認識の基で、私自身を含めて自己研鑽に努めており、その発明本来の統べき処を内言語たる思想で捉え、各自の専門技術知識に基づく明細書全体の適正な文脈により発明技術を説明すると共に、場合によっては言葉に新しい意味を創造的に与え、外言語たる言葉で的確に表現し、「初めに言葉あり」の神(ロゴス)の領域に近づくべく努力しております。

 このことは、勿論、極めて困難なことですが、クライアントとの充分な意思の疎通により、共に手を携えて、困難を克服していきたいと思っております。幸い、質の高い熟練した事務担当所員、外国担当所員、図面担当所員にも恵まれ、当事務所としては開業以来最高のレベルになっていると思います。しかし、まだまだ充分ではなく、更に高いレベルに向けて一層の努力をしていく所存ですので、皆様のご指導、ご鞭撻をお願い致します。

 なお、強すぎる自意識、安易な達成感は、上述した当事務所の一般方向を阻害するものと考えておりますので、ご指導、ご意見等がありましたら、お気軽にこちらまで御連絡をお願い致します。

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